中秋の名月

中秋の名月


歌人・若山牧水は 「白玉の 歯にしみとほる秋の夜の 酒は静かに飲むべかりけり」 と詠んだ。
私もそれにあやかろうと中秋の名月の夜、庭に席を設けて一人酒を飲む。

早い時間は薄雲が広がり、その雲を透かして見える朧月は得も言われぬ風情がある。
秋の風がそよぎ、マツムシやウマオイ、カネタタキなどの鳴き声はまさしく秋の季語「虫しぐれ」。
都会では味わうことが出来ない田舎ならではの贅沢だ。

葷酒

葷酒


時が経つにつれ雲が消え、満月の一日前の「待宵月(まつよいづき」が揺れながら私の盃に姿を現した。
生粋の風流人であれば酒の肴は「月」と「虫の音」だろうが、俗世間の煩悩から逃れられない私は、仏教の結戒の一つ「不許葷酒入山門(くんしゅ さんもんにいるを ゆるさず)」の葷、つまり代表的なニンニクの味噌漬とわさび漬。

おぼろ月

おぼろ月


 中秋の月は「待宵月」、「十六夜(いざよい)」、「立待月(たちまちづき)」、「居待月(いまちづき)」と次々に呼び名が変わる。となると、こちらとしても毎日月見の宴を開かなくてはならない。
 風流にどっぷりと浸かりながら、心に移りゆくよしなしごとをぼんやり考えながら酒を飲む。
月見の酒は一人飲む酒が一番・・・と、思った時ふと中国の盛唐の詩人李白の「月下独酌(げっかどくしゃく)」の一節を思い出した。

舉 杯 邀 明 月  盃を挙げて明月(めいげつ)を迎え
Jiu bei yao ming yue

對 影 成 三 人    影に対して三人となる
Dui ying cheng san ren

盃の月光

盃の月光


酒好きで有名な李白は徳利を持ち出し独酌しようと外に出たところ、美しい月が空に上がっていた。
そこで李白は盃を挙げて月を迎え入れ、そして月光に映し出された自分の影との三人で酒を酌み交わした、という情景を謳いあげている。
 まさに生粋の風流人である。
最後は三人それぞれに分かれ、いつ終わるかもしれない無常の人生を終えた時にはまた天の川での再会を約束しよう、と結んでいる。
 いつの時代も月見の独酌は人を感傷的にさせるようだ。李白もその一人だったに違いない。

私は挙げた盃に映った名月をそっと飲み干し夜空を見上げた。