豪華客船への期待と消え始めた中国クルーズ船

スタープリンセス(香港)

スタープリンセス(香港)


スターリーメトロポリス(香港)

スターリーメトロポリス(香港)


天海新世紀1(鹿児島)

天海新世紀1(鹿児島)


天海新世紀2(鹿児島)

天海新世紀2(鹿児島)


 ここ数年、日本全国の港に寄港する豪華客船。
地元の清水港でも「清水港客船誘致委員会」の地道な誘致活動が実り、この連休にも多くのクルーズ船が入港する予定だ。
 当然自治体も鼻息荒く、地域活性化の起爆剤として官民一体となった歓迎セレモニーやイベント開催を予定している
 確かに長く物流拠点であった清水港に豪華客船が入港することは、活気があり華やかさがあるが、果たして「豪華客船の入港=地域活性化」に直結するのかを今回平成最後のニュースに取り上げ考えてみたい。

 数年前、「爆買い」でニュースになった中国人観光客を何千人と乗せたクルーズ船が日本各地の港に寄港するようになった。
 バスなら40人が精一杯の観光客が、たった船一艘から2千人3千人と下船して観光や買い物をする光景は、まるで船から「カモがネギをしょって」あるいは「財布が転がり降りてくる」ようにも見えるだろう。
実際、客船が寄港する港近くには多くの免税店や家電量販店、ショッピングセンターがオープンすると同時に、入港日だけテントを張り記念品を販売する業者や個人向け観光タクシーの受付テントなどが立ち並ぶ光景が見られるようになった。
しかし、乗船旅客数のわりに期待する地元の売り上げが伸びない地域(港)もあり、実績のわりに地域活性化の役割が空回りするケースが多く見られ、私たちの静岡県清水港でも同様の声が聞かれる。
一例を挙げると、中国人を満載する客船が多く入港する九州。
去年から客船入港数が落ちているが、実は中国市場からの客船撤退が相次いでいるのだ。私も以前視察に訪れた際に鹿児島港に入港していた「天海新世紀号」(英語名:スカイシー・ゴールデン・エラ)は、中国本土初といわれたクルーズ船で、中国でWEB販売する大手旅行社のシートリップが共同運航する客船だったが昨年秋に運行を終えた。
 もともと広大な国土を誇る中国では船旅は快適で人気があったのだが、運行終了の理由はこうだ。
 旅行会社シートリップは中国国内の旅行会社に客室を販売し、各旅行会社は各地域で販売集客をしていた。しかし、所詮客船の航路は決まっているため他社との差別化に苦労し、原価を割る価格設定をしたうえで買取客室を埋めていた。では利益はどこで確保するのかと言うと、寄港先でのオプショナルツアーやショッピングでのコミッションに頼らざるを得ないのだが、もともと客船利用客は時間に余裕のある年配者や旅行代金を安価に押さえたいファミリー層では期待するような現地収益が見込めなかった。そして爆買いの終焉と共に運行終了となった。
天海新世紀同様に、サファイア・プリンセス、マリーナ・オブ・ザ・シー、ノルウエー・ジャン・ジョイ、すべて中国市場から撤退した。
 これは一例ではあるが、中国市場から撤退する客船運行会社は今後も増えるだろう。

 
我らが清水港はもともと中国人を満載した客船はそう多くはないが、これら状況を他山の石としてどうしたら地域活性につなげるのかの検討をしないと他港と同じ憂き目にあうだろう。
 海外の旅行会社は「客船から富士山を望む」の謳い文句で清水港に入港するだろうが、実施旅行会社は利益確保のために東京や横浜、神戸などの免税店やオプショナルツアーに積極的に誘導し、旅行会社にメリットの少ない入港先では動こうとしない。
 日本平や国宝東照宮、いちご狩りや徳川家康をいくらPRしても単なるフリータイムで処理し、乗船客は半日を港周辺散策で終えてしまう。
海外の旅行実施会社にとって大事なのは、船内で開催されるイベントや飲食でもなく、入港先の魅力でもない(少しは大事だが・・・)。
一番大事なのは実入りの多い「二次消費」に他ならない。
今年の夏には中国人仕様にカスタマイズされた世界最大級の客船「マジェスティック・プリンセス」(中国名:盛世公主号 sheng shi gong zhu hao)も清水港に初寄港する予定だ。
華やかで魅力的な豪華客船でのクルーズだが、それをビジネスチャンスにするのはなかなか難しい。

豪華客船「平成号」はバブルも終わろうとする中で出航し、30年も情勢不安定な寄港地や天候不順な荒波の航路を進み、今まさにその役目を終えようとしている。
節目節目の寄港地では、エージェントに誘導され散財する乗客や目的なく時間を浪費する人々。船内ではそれなりに楽しんでいたものの、一旦見知らぬ外に出ると優秀なツアーコンダクターがいない限り何をすればいいのか解らずうろたえる。
まさに周章狼狽(しゅうしょうろうばい ※1)
右顧左眄(うこさべん ※2)。
来週5月1日に出航する新造客船「令和号」は、決して豪華でなくとも令和の由来同様、これからの希望に夢を持ち、凪の大海を優雅に進み、乗船客である私たち日本人一人一人が世界の人々に笑顔と平和をもたらすようなクルーズになるよう期待したい。

※1 非常に慌てうろたえるさま
※2 右をみたり左をみたり、あたりの情勢をうかがってばかりで決断できない状況