三島由紀夫が愛したマドレーヌ

店内と看板娘

店内と看板娘


『金閣寺』『仮面の告白』『サド侯爵夫人』など数多くの作品を遺した憂国の文豪三島由紀夫。今日はその三島が日本一のマドレーヌと絶賛したという伊豆下田市にある「日新堂菓子店」を紹介します。

三島由紀夫は1970年(昭和45年)に憲法改正のため自衛隊に決起を促し、市ヶ谷駐屯地で割腹自殺するという三島事件(盾の会事件)を起こした。昭和の時代にあって時代錯誤的な割腹自殺に日本中が大騒ぎになり、当時私の父親が眉間に皺を寄せながら朝刊を見ていたのを今でも覚えている。

マドレーヌと日新堂

マドレーヌと日新堂


マドレーヌとレモンケーキ チラシ

マドレーヌとレモンケーキ チラシ


先日下田を訪れた際に念願だった日新堂菓子店を訪問した。
店に入るとお客も店員も見当たらない。店内の商品や壁に掛けられた三島に関する写真や昔の店の写真を眺めて待つこと2分。店の奥からマドレーヌの広告チラシの少女のモデルだと推察されるような可愛らしいおばあちゃんがゆっくりと現れた。
 私はこれこれしかじかの理由でお店にマドレーヌを買いに来ましたと伝え、そのお婆ちゃんと三島由紀夫談義をすること15分。
聞けばもともと創業者が東京で煎餅修行をして下田で煎餅屋として開業したのが大正11年。
三島由紀夫は昭和39年から現存する下田東急ホテルの3部屋を別荘代わりに貸切り、毎年夏になると避暑で下田に滞在しては日新堂菓子店を訪れたという。
三島由紀夫が愛したマドレーヌ

三島由紀夫が愛したマドレーヌ


 そこで大のお気に入りになったのがマドレーヌ。日新堂菓子店は昭和30年から60年以上味を変えることなく牛乳もバターも使わないマドレーヌを作り続けているが、三島はそのマドレーヌを「日本一」と絶賛し観光客に宣伝もしてくれたらしい。
昭和45年、下田に滞在していた三島由紀夫が東京に戻る、と日新堂菓子店に挨拶に来てくれたのが11月22日。なんと割腹自殺をする3日前のことだった。
店主が「こんどはいつ来るの?」と聞いたところ、三島は「もう来られないかもしれない」と答えたという。すでに三島の決意と覚悟は出来ていたに違いない。
 そのような話を聞きながら私も日本一のマドレーヌを買い、看板お婆ちゃんに見送られ店を後にした。
自宅に戻り楽しみにそのマドレーヌを食べてみると・・・。
まず口元に近づけた瞬間に「フワ~ッ」とバニラの甘い香りがする。そしていま流行りのしっとり感はないが間違いなく昭和の味がした。甘すぎず、かといって飲み物が欲しくなるようなパサつきもない。
舌先に感じる甘みと鼻腔に抜けるバニラの香りが絶妙で間違いなく美味しい。さすに文豪が絶賛しただけのマドレーヌだ。
ハリスの牛乳あんパン

ハリスの牛乳あんパン


日新堂菓子店は下田駅から徒歩10分。途中には「ハリスさんの牛乳あんパン」で有名な平井製菓もあるので、三島文学ファンでなくてもこの2軒は訪れる価値があると思います。
伊豆下田を観光した際にはぜひ立寄ってみてはいかがですか。