巨星堕つ!(李登輝元台湾総統死去)

巨星堕つ!(李登輝元台湾総統死去)
哲人政治家と呼ばれ、台湾の民主化を推進した李登輝元台湾総統が7月30日死去した。
台湾のみならず日本にとっても、とてつもなく大きな損失だ。
 よく知られていることだが、残念ながら「台湾」は世界では主権国家として認められていない。
そのため日本国内に大使館も存在しなければまたその反対も存在しない。
そして台湾=中華民国の名称も中華人民共和国(中国)との歴史を紐解かなければ説明できないほど複雑なのだ。
 日本の側から見れば、台湾は親日家が多い上に食べ物(特にスイーツ)が美味しく、「安・近・短」で行くことが出来る人気の観光地になっているが、その歴史と台湾人にとってのアイデンティティーの問題は極めて複雑で我々日本人には理解しがたいものがある。
 アイデンティティーを日本語に訳すと「自己同一性(じこどういつせい)」と訳され余計に訳が解らなくなるが、台湾人にとって「自分は何者なのか?」と言う身分証明書と言うべき「自分らしさ」を李登輝は強いリーダーシップで牽引し、新台湾人としての自覚を促したのが李登輝の最も素晴らしい功績と言っても過言ではない。
 今から30年ほど前までの台湾は、今の中国から来た国民党政府による一党独裁で、38年の長きにわたり戒厳令が敷かれ反政府団体は凶弾、投獄されていた。
そのような中で、日本統治下の台湾に生れ22歳になる終戦まで岩里政男という日本人だった李登輝は、新渡戸稲造の「武士道」を心の支柱として難局を乗り切り、我々は新台湾人なのだというアンチテーゼにより台湾人としてのアイデンティティーを確立させつつ、時には大きな権力に巻かれながらも時には反旗を翻し、民衆に自立を求めて台湾人として初めて選挙による民選総統に就任した。
 2000年に総統を退任した後も長老として活躍する一方、中国や韓国の歴史問題や領土問題で右往左往する日本を憂い、時の政府や日本国民を叱咤激励するメッセージを発信し続けた。今でも台湾では「日本精神(リップンチェンシン)」と呼ぶ日本統治下時代の日本人の道徳や美徳、モラル、責任感、自己犠牲、勇気を称える言葉がある。
 李登輝は私たち日本人が戦後いつの間にか忘れてしまったこの「日本精神(リップンチェンシン)」を、新渡戸稲造の「武士道」を引き合いに思い出させ、常に鼓舞してくれた台湾の政治家であり日本の精神的リーダーでもあった。
 今後、李登輝のように強いリーダーシップでイニシアチブをとることのできる人間はなかなか出てこないかもしれないが、彼が日本に残してくれた多くのメッセージは永遠に消えることはない。

最後に
李登輝が2011年東日本大震災の折に、世界各国に先駆けて発表(震災当日夜)した日本国民に向けてのメッセージ(一節)を紹介したい。
これは震災当時多くの国民が感動し勇気をもらったメッセージの一節であり、現在の新型コロナ蔓延で苦しむ日本、世界に残してくれた言葉なのかもしれない。

 

人間には力の及ばない大自然の猛威を前に、畏怖の念は抱いても決して「運命だ!」とあきらめないで下さい。
 元気を出してください!自信と勇気を奮い起こしてください!

常に将来を見据え、個ではなく公を重んじた哲人、李登輝元台湾総統のご冥福をお祈りする。